第14章 【信長編】※閲覧注意※ R18
手柄にはやり、先陣を切って乗り込んできた若武者が、その場の凄惨な光景にゲェゲェと嘔吐する音が聞こえる他は、あたりはシンと静まり返っていた。
「しっかりしろよ若造。これが戦だ」
揶揄うようにケラケラと笑う古参兵達。
そんな中、竜昌は低く声を抑えて言った。
「首実検をする。城内で捕らえた者がいたら、連れてこい」
「はっ!」
二・三人の兵と一緒に、先程まで吐いていた若者が、転がり落ちるように階下へ降りていった。
首実検とは、落とした敵将の首が本人かどうか確認する作業である。しかし、ほぼ完全に制圧したこの古木城内で、生き残っている敵がいるかどうかも怪しかった。
「おそれながら、藤生殿」
今回の戦の副将を務める江藤という男が、竜昌に駆け寄り、耳打ちをした。
「梶木家嫡男の虎太朗がおりません」
「…」
城主の梶木基平には、十に満たない嫡男がいるという情報が、事前に知らされていた。しかしこの場に斃れているのは大人ばかりで、それらしき姿は見当たらない。
「…皆で探せ。生け捕りにしろ」
「はっ!」
竜昌を残し、全員が階下へと降りていった。
後に残された竜昌は、兵たちの姿が見えなくなるとともに、目眩を覚え、その場にクタリとしゃがみこんだ。
─── ◇ ─── ◇ ───
捜索を始めて間も無く、嫡男・虎太朗は、城内のかまどの中に隠れていた所を捕らえられ、竜昌の前に連れてこられた。
幼いながらも凛とした目つきで竜昌を睨みつけるあたり、さすが城主の嫡男らしい振る舞いと言える。しかし、かまどの中ですすだらけになった黒い頬に、涙の筋がいくつも残っていた。
「虎太朗だな」
「…」
竜昌の問いかけに、虎太朗は答えず、睨みつける眼差しにさらに力を込めた。その無言の抵抗が、自らが虎太朗であることを雄弁に物語っていた。
「そなたの父も母も、腹を召された」
「!!」
大きく見開いた虎太朗の眼に、絶望の闇が宿る。その闇の中に、次期城主としての重圧、自らの無力さへの怒りが渦巻いているのが、見えるようだった。
ふと竜昌は、幼い頃の自分の姿を、虎太朗に重ねていた。
「父様…母様…」
「案ずるな、お前もすぐあちらへ送ってやる」
竜昌は、刀を上段に大きく振り上げた。