第3章 【政宗編】※R18
ヒラヒラと舞うように逃げる竜昌に翻弄され、つい無駄な動きが多くなる政宗。
一方の竜昌は息ひとつ乱れていない。
「ほらほら足元がお留守」
間髪を入れずに、足元を狙って切り込んでくる竜昌。瞬時に避ける政宗。政宗でなければ今ごろ脛を砕かれていただろう。
「目に頼りすぎない。耳で聞いて、肌で感じて、動きを読んで」
「ああそうだったな」
神経を研ぎ澄ませると、ザッと地面を蹴る音がして、死角から竜昌が近づいてくるのがわかる。
次の瞬間、政宗は打ち込みを受けるとみせかけて木刀を左手に持ち替え、竜昌のいるほうへ突き出した。
「ウッ」
手ごたえがあった。
木刀の切っ先は、竜昌の左の鎖骨の下あたりをまっすぐに捕らえていた。
野次馬からはやんやの大歓声があがった。
「勝負あり」
ニヤリと笑った政宗に、竜昌も笑顔で答える。
「お見事でした」
「そりゃあもう、毎度毎度 口うるさく指導してくれるお師匠さんのおかげでね」
「あははは」
思考のすべてが顔に書いてある舞と違って、竜昌はあまり感情を表に出さず、いつも落ち着いている。そこはさすが元城主というところか。しかし剣術の稽古をしている時だけは饒舌になり、子供のように無邪気に笑うこともあった。
「さてもう行くか。そろそろ軍議の時間だ」
「はい」
二人は汗を拭きながら、天主のほうへと歩きだした。
途中、竜昌が左肩をかばうような動きを見せたのに気付いた政宗が聞いた。
「おい、さっきのは大丈夫か」
「大したことありません」
「待てよ」
政宗が肩に手を置いて、竜昌を引き留めた。一瞬、竜昌の表情が歪む。
「おいちょっと見せてみろ」
半ば強引に、政宗が辰正の左の襟元をつかんでぐいと開いた。
鎖骨の下あたり、大きな赤黒い痣ができている。
「まさか折れて…」
痣に触れてみようとしたが、胸にきつくまかれたさらしや、汗で髪の毛が張り付いた艶めかしい首筋が、否応なしに視界に飛び込んできて、思わず手をひっこめた。
女の身体など見慣れているはずなのに。
『そういえば、こいつが女だってこと忘れるところだった…』
「折れてはいません」
「すまなかった、嫁入り前の体に傷を・・・」
政宗がそう謝ると、竜昌はふいと視線をそらし、襟元を正した。
「良いのです、嫁になど、いきませんから」
「え?」