第3章 【政宗編】※R18
竜昌が安土城に来てから数か月。
信長の直参として召し抱えられた竜昌は、しばらく居候していた政宗の屋敷を出て、安土城内に与えられた一室で暮らしはじめた。
安土城で軍議が開かれると、各武将が城に集まってくる。その時、竜昌は決まって政宗に声をかけた。
「まーさーむーねー様」
庭に面した障子の向こうから、竜昌の声が聞こえてきた。
居室で書状をしたためていた政宗は、待ってましたとばかりに顔をあげて答えた。
「おう、待ってろ。今いく」
書状をきれいに折りたたんで封をすると、政宗は立ち上がって障子を開け放った。
庭では、木刀を2本担いだ竜昌が、キラキラと目を輝かせて立っていた。まるで童が隣の子を誘いにきたような様子だ。
「今日こそは負けないぜ」
「望むところです」
政宗の屋敷にいるときからはじまった二人の剣術の稽古。竜昌が安土城に移ってからも、暇をみつけては続けていた。
今のところ、二人の剣術の実力は五分五分───いや、四分六分で竜昌のほうがやや上だった。
竜昌のもつ天性の俊敏さと動体視力、そこへ女ならではのしなやか体と、柳生宗則仕込みの鋭い剣さばきが加わり、
影山流免許皆伝の腕前をもつ政宗でさえ、手痛くやられることがしばしばだった。
「お前いいかげんその『様』ってのやめろよ」
「そうは参りません」
「堅苦しいやつだな。むしろ剣術ではお前のほうが師匠だってのに」
「ふふ」
本丸を出て、少し開けた二の丸の曲輪までくると、二人は木刀を構えた。
いつものように、二人の鮮やかな剣技を見ようと、城内の野次馬も集まりはじめた。(ただし恐れをなして誰も手を出そうとしない)
「いざ!」
「来い!」
木刀同士がぶつかりあう固い音が響き、野次馬たちの歓声が一気に高まった。
政宗の大きな振りを軽くいなし、竜昌は目にもとまらぬ速さで背後にまわりこむ。
「力みすぎです。もっと力を抜いて」
竜昌が背後から打ち込んだ一撃をすんでのところで避け、木刀の先は政宗の着物をかすっただけだった。
政宗がすかさず間合いを詰めて切り結ぶ。正面で受けた竜昌は余裕の表情だ。
「右目をかばおうと体が開いているからです、もっと腰を入れて」
腕力勝負では政宗に勝てないとわかっているので、竜昌は剣を受け流し、サッと引いて間合いを取る。