第12章 【秀吉・後編】※R18
「竜昌!」
政宗が慌てて部屋に踏み込むと、そこには筆や紙が散らばった文机だけがあり、竜昌の姿は無かった。
奥の間に続く襖が、少しだけ開いている。政宗が襖に手をかけ、左右に大きく開くと、雪に反射した朝日が奥の間を照らし出した。
「…マジかよ…」
政宗は顔から血の気が引いていくのを感じた。
奥の寝所には、ぐちゃぐちゃに乱された寝具と、竜昌のものとおぼしき夜着。それらのあちこちに、生々しい血の染みがついていた。
そしてすぐ脇には、抜き身の懐剣が落ちている。まるで何者かの襲撃にあったかのような有様だった。
「おい、竜昌?」
部屋の隅に、丸まった掛布団があった。姿の見えない竜昌がこの寝所にいるとしたら、そこしかない。
政宗は掛布団の端に手をかけ、グイと持ち上げ────ようとしたところ、中から掛布団を強く押さえる力を感じた。
「!?」
政宗が手を離すと、掛布団の中から、蚊の鳴くようなかすかな声が聞こえてきた。
「み、見ないで…ください…」
声の主は、あきらかに竜昌だった。
竜昌が生きていることにホッとしたものの、政宗はこの状況を飲み込めずにいた。
夜着と襦袢が散らばっていることを考えれば、おそらく布団の中にいる竜昌は裸なのであろう。それにしてもこの大量の血は…?
その時、政宗の鼻腔を、どこかで嗅いだことのある匂いがくすぐった。
『これは…』
やがて政宗は、唇の端を吊り上げるように、ニヤリと笑った。
「秀吉の煙管の匂いがするな」
掛布団の隙間に向かってつぶやくように政宗が言うと、その中でビクリと何かが動く気配がした。
さすがは料理上手の政宗と言うべきか、一発でその匂いの元を当てたようだ。
「俺様は鼻が利くんだ」
「…!!」