第12章 【秀吉・後編】※R18
慌てふためいた様子で、竜昌が懐から取り出したのは、いつか秀吉が託した懐剣だった。
「あ、これは、えっと、その、ずっとお返ししようと…」
ずっと肌身離さず持っていたことがバレてしまった恥ずかしさに、竜昌は思わず目をギュっと瞑ったまま、懐剣を秀吉に押し付けた。
「ごめ…じゃなくて、貸していただいてありがとうございましたっ!」
秀吉は、その懐剣を握りしめる竜昌の手を、ふわりと上から包みこむように片手で握った。
「もし良かったら、ずっとお前が持っててくれないか?」
竜昌は驚いたように目を開けて、その長い睫毛がぱちぱちと音をたてるほど大きく瞬いた。
「でも、これは秀吉様の奥方になる人が持つものだと…光秀様が…」
「だから、お前に持っていて欲しいんだ」
「え?えーっと?」
視線を泳がせる竜昌の目の前で、急に秀吉の表情が真剣になる。
「…皆まで言わせる気か?」
「あ!わかりました!秀吉様が晴れて奥方様を娶られるその時まで、私がお預かりしておけばよろしいのですね!?」
「へ…」
「お任せ下さい!信長様の金平糖と同じくらい、大切にお預かりいたします!」
わざとらしいほど明るい声で言った竜昌の表情は、笑っているようにも、泣いているようにも見えた。
秀吉はがっくりと項垂れて、竜昌の肩に顔を埋めた。
「竜昌、そうじゃない…」
「えっ?」
秀吉は、竜昌の顔の横に両手をつくと、もう一度至近距離で竜昌を見下ろした。
「…嫁に来いってことだ」
そう言うと、秀吉にしては珍しく、照れたように首から上を真っ赤に染めた。
「ふぁっ…んっ…」
次の瞬間、秀吉は照れ隠しのためか、再び竜昌の唇を奪った。