第12章 【秀吉・後編】※R18
「いや、もう少しだけ…今までの分も…」
秀吉は、なおも竜昌の頭を優しく撫で続けた。
「俺もずっとこうしたかった…」
「え?」
「でも、できなかった。なぜかお前のことは撫でちゃいけない気がして…。動けない間、ずっとその理由を考えてた」
秀吉の手が、ゆっくりと竜昌の頬に降りてくる。男らしい固い手のひらが、竜昌の頬にそっと触れた。
「…上手く言えないけど、俺はお前のことを一人前の武将として認めてる。そんな相手の頭を撫でるなんて、何だかおかしい気がして──」
「秀吉様…」
「だって考えてもみろ、もし俺が光秀の頭を撫でてたら、可笑しいだろ!?」
「…ぷっ!」
竜昌は目を真ん丸にすると、次の瞬間吹き出し、大きく口を開けて笑った。脳裏には、にこにこと楽しそうに笑いながら頭を撫でる秀吉と、まるで地獄の責め苦を受けているかのような形相の光秀の姿が、容易に想像できた。
『ああ…いつもの秀吉様だ…』
いつも他人のことを思いやり、周りを楽しい気持ちにさせてくれる、太陽のような人。
「やっぱり、秀吉様は光秀様のことを認めていらっしゃるのですね?」
クスクスと楽しそうに笑う竜昌の頬を、秀吉の親指が優しく撫でる。
「やっぱりお前が笑ってくれると、嬉しいな」
「じゃあ…いっぱい笑います!(たとえ秀吉様が舞様のことを想っていても…それで喜んで頂けるのなら、私は…)」
竜昌は秀吉の顔を見上げ、精いっぱいの笑顔を浮かべて笑った。
「本当だな?もう金平糖は必要ないか?」
「!!…覚えていて下さったんですか?」
「当たり前だろ?だって俺たちは共犯者だ」
「アハッ!」
笑っているうちに、竜昌は永久に凍ってしまった自分の心の中心部に、ほんの小さなぬくもりが灯ったように感じた。
その竜昌の笑顔を慈しむように見ていた秀吉の顔に、ふと憂いの表情が浮かんだ。