第12章 【秀吉・後編】※R18
「あっ…あの、一度だけ…」
「ん?」
「あ、頭を…撫でて下さいますか…」
「えっ?」
顔全体を真っ赤にしながら、消え入るような小さな声で訴える竜昌に、秀吉は驚いたように目を丸くして、身体を起こした。
「(舞様にしか与えられない特権だとはわかっています…でも…)一度だけ…」
「そんなんで…いいのか?」
竜昌も身体起こし、寝床の上に正座をして、両膝に握りこぶしを置くと、こくんと頷いた。
秀吉も竜昌に釣られるように正座をして、膝と膝を突き合わせるようにして座った。
目の前には、真っ赤になりながらうつむいている竜昌。
秀吉はそっと右腕を上げた。
「ッ!」
背中に走る痛みに秀吉が息を呑む。驚いた竜昌が、上げかけた秀吉の右手を、両手で受け止めた。
「秀吉様!まだ傷が!?」
「すまん、腕を上げるとまだ傷口が引きつって…」
先程とは違い、すでに十分に温まった手で、竜昌は包み込むように秀吉の手を握った。
「ああ…この手だ…」
秀吉の表情がふっと緩んだ。
「あの夜、ずっと俺の手を握っていてくれただろう…覚えてる…」
痛みと失血でほとんど意識のなかったであろう秀吉だったが、その時の、励ますように握りしめてくれていた 竜昌の熱い手の感触を思い出していた。
竜昌もまた、その時 成す術もなく握りしめることしかできなかった秀吉の冷たい手を思い出していた。しかし今、その手の中には 生命を感じさせる確かな温かさがあった。
秀吉は、右手を竜昌に握らせたまま、左手を伸ばして、竜昌の頭の上にそっと置いた。
竜昌は一瞬、ぴくりと身体を震わせたが、ゆっくりと頭を撫でられると、眠りに落ちる子猫のようにうっとりと目を細めた。
「もしかして、ずっと撫でられたかったか…?」
秀吉が問うと、竜昌は恥ずかしそうに小さく頷いた。
愛おしげに秀吉は何度も竜昌の頭を撫でた。
あの日以来の、大きくて暖かな手の感触がみるみるうちに竜昌の心を満たしていった。
「…ごめんな」
竜昌は小さく首を振った。
「『ご』で始まる言葉は、だめです…」
「!」
「ありがとうございます、秀吉様。もう十分です」