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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第12章 【秀吉・後編】※R18


秀吉の乗った担架を、四人の男たちで順番に担ぎながら、一行はゆっくりと安土を目指した。
竜昌は、秀吉の側を片時も離れずについていった。途中、日差しが眩しければ秀吉に笠をかかげ、時折 馬から降りては秀吉の汗をぬぐった。
「…あ、秀吉様が!」
途中、担架をかついでいた家臣の一人が、秀吉がうっすら目をあけたことに気付いた。
竜昌が急いで駆け寄ると、秀吉はその目を開けていたが、その視線はまだ夢見るように揺らいでいた。
「…秀吉様、もうじき安土です。もう少しだけご辛抱ください」
竜昌が耳元で囁くと、秀吉の鳶色の瞳が、ゆっくりと竜昌を捉えた。
しかし竜昌は思わず息を呑んで、身を固くした。昨夜、苦し気に舞の名を呼んでいた秀吉の声が、耳を離れない。
今その眼に映っているのは、はたして自分か、舞か────
秀吉は、竜昌の姿を見て、ふっと目じりをゆるめて微笑んだ。いつもの優しげな秀吉の笑顔だ。
「…た…つまさ…」
「!!」
秀吉がかすれた声で呼んだのは、竜昌の名だった。
「秀吉様…」
しかし次に秀吉が口にしたのは、信じられない一言だった。
「…どうした…?そんな姫君みたいな…恰好をして…」
「えっ!?」
家康の処方した鎮痛剤のせいか、秀吉の記憶は混濁しているようだった。
「…よく似合ってるよ」
目を大きく見開く竜昌に向かって、秀吉は弱々しく手を伸ばそうとした。
「…キレイだ…」
そうつぶやいた次の瞬間、秀吉の顔が苦痛に歪んだ。そして再び、秀吉は意識を失い、竜昌に触れようとした手は、力なくその胸に落ちた。
『っひで…よ…さっ…』
竜昌の喉は嗚咽で塞がれ、もう声を出すことすらできなかった。大きな眼から、もう枯れたとばかり思っていた大粒の涙がぽろぽろと地面に零れた。

─── ◇ ─── ◇ ───

予定通り、一行はまだ完全に日が暮れる前に安土城下にたどり着いた。
竜昌は、秀吉を屋敷に送り届け、豊臣家の家人と家康にその身柄を託すと、真っ先に安土城へと向かった。
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