第12章 【秀吉・後編】※R18
それを背後から、秀吉の声が引き留めた。
「ハイッ!」
何ごとかと振り返った竜昌の目の前に、秀吉がひざまずいた。
「!?」
「俺の肩に手を置け」
「え…ひでよしさ…」
思わず【様】と言いかけて思いとどまった竜昌を、秀吉はチラリと見上げ、よくやった、とばかりに微笑んだ。
「いいから。ほら、」
そう促されて、竜昌は、ひざまずいた秀吉の肩におずおずと両手をかけた。
すると秀吉は、その両腕で竜昌の腰と膝を抱えると、軽々と頭上に抱き上げ、春雷の鞍の上にストンと座らせた。
「っあ…」
手のひらから伝わる、秀吉の逞しい筋肉の固さ。押し付けられた脚に感じた厚い胸板。
市女笠がなければ、あたり全員に竜昌が首筋まで朱に染まっているのがばれただろう。
「姫君は、普通 自分で馬にはまたがらないもんだ」
優しく微笑む秀吉は、そうやっていつも舞を馬に乗せていたのだろうか。
ひらり…ひらり…
──モウ コレイジョウ ヤサシク シナイデ
引き裂かれそうな竜昌の心を知ってか知らずか、春雷が一声、嘶いた。
秀吉もそれを合図にしたかのように、自分の愛馬にまたがり、総勢十一人の【舞姫一行】は早朝の安土城を発った。