第12章 【秀吉・後編】※R18
「そうだ、…舞。これから俺のことを呼ぶときは【秀吉】だからな」
そういえば舞はいつも武将たちを呼び捨てにしていた。
竜昌は何かに耐えるように顔を真っ赤にしながら、たどたどしくその名を呼んだ。
「はい…ひ、ひで…よ…し」
ひらり、ひらり…
「よくできました」
甘やかな眼差しで、秀吉が竜昌に笑いかける。
ひらり…
真白な雪の上に散る真紅の花びらは、竜昌の心が流す血だった。
─── ◇ ─── ◇ ───
竜昌たち一行は、安土城の大手門ではなく、裏にあたる乾門から出立した。お忍び(という設定)なのでもちろん見送りはない。
乾門で待っていた竜昌の愛馬・春雷は、見慣れぬ主の姿を見て、鼻をブルルと鳴らし、前足で地面を掻いた。
「春雷、脅かしてごめんね。私よ」
竜昌はそっと春雷に近寄ると、市女笠の垂れ衣を少しだけ開けて顔を見せた。主の声を聞き、顔を見て、春雷は不思議そうに鼻息を鳴らしていたが、やがて大人しくなった。
「ちょっといつもと違うけど大丈夫。よろしくね春雷」
慣れた仕草で、春雷の首筋をやさしく撫でると、竜昌はいつものように鞍に手をかけ、鐙(あぶみ)に足を乗せて一気にまたがろうとした。
「待て」