第12章 【秀吉・後編】※R18
一行は粛々と街道を進み、岐阜城へと向かった。
安土を出てから一言も発しない竜昌と、どこか楽しそうに景色を楽しんだり、家来衆と談笑する秀吉が対照的だった。
時々、馬を並べた秀吉が心配そうにちらりと竜昌を見たが、竜昌は目線を伏せたまま、静かに春雷の背に揺られていた。
やがて一行は、人里を離れ、峠道の入り口に差し掛かった。ここまでくれば、すれ違う人影もまばらである。
秀吉はしびれをきらしたように、ようやく口を開いた。
「なあ、舞」
「…はい」
「どうした、元気ないな。疲れたか?」
「いえ、声でばれてしまわぬように」
「そうか…無理するなよ。疲れたらいつでも言え」
「かたじけのうございます。大丈夫です」
ひら、ひらり…
どこか寂しそうな表情の秀吉。
気遣うように見つめる鳶色の瞳が、余計に竜昌の胸をえぐった。あれは舞に向けられるはずの優しさだ。
『ごめんなさい、秀吉様。ここにいるのが舞様だったら、良かったですよね…』
市女笠の薄い絹ごしに見る秀吉の姿は、すぐ側にいるはずなのに、ずいぶんと遠くに感じられた。
やがて一行は、渓谷の崖沿いを通る細い道に出た。はるか眼下には谷川を望み、崖を削って作られ道は人馬がすれ違うのがやっとだ。
対岸の崖には、岩肌に張り付くように沢山の楓の木が生えていた。崖下の方はまだ緑の葉が残っているが、だんだんと上に向かうにつれて葉はその色を変え、一行のはるか頭上の崖上では、燃えるような紅葉を見せていた。
まるで錦絵のような美しい光景に、秀吉は子供のようにはしゃいでいた。
「わぁ・・・キレイだな、舞。見てみろ」
「…」