第12章 【秀吉・後編】※R18
舞の後ろに隠れるように立っていた竜昌が、おずおずと全員の前に姿を現した。
「ほう…」
誰ともなしに感嘆の声が漏れ、広間がにわかに色めきだった。
そこに立っていたのは、薄く化粧を施され、いつもは結い上げている髪を下ろし、舞の着物を羽織った竜昌だった。
恥ずかしそうに引き結んだ、形の良い小さな唇にさされた紅が、人目を惹きつける。
濡れたように黒い瞳も、肩を流れる艶やかな黒髪も、そもそも竜昌のもっていたものだが、こうしてみると、匂いたつようなその色香に武将たちは驚くばかりだった。
もちろん、舞とは顔つきも肌の色も違う。舞は手に持っていた市女笠を、竜昌に被せた。そうすれば十二分に深窓の姫君に見えた。
「今はちょっとだけ着物の丈が足りないけど、出立までにはなんとかするから!」
今でもこの安土で時々お針子仕事をしている舞は、がぜん張り切っていた。
「ほら、みんなも何か言うことないの!?」
舞がけしかけるように言うと、竜昌に見惚れていた武将たちはやっと口を開いた。
「どこぞの姫かと思ったぜ」
「お綺麗です、竜昌様」
「…悪くないんじゃない」
「まさに馬子にも衣装だな」
「ちょーっと、ひどいよ光秀さん」
「これでも褒めているつもりだが?なあ秀吉」
「…あ、ああ」
ひときわぼーっと竜昌に見惚れていた秀吉が、我に返った。政宗がそんな秀吉を見てニヤニヤしている。
「良かったな、竜昌。心配性のお兄様が、お前の護衛についてくれるそうだ」
「え…」
「だから兄じゃねえっての」
「…」
秀吉が同行すると聞き、一瞬浮足立った竜昌も、秀吉の言葉に、冷水をかけられたように心臓が縮み上がった。。
「秀吉が一緒にいってくれるの!?それは心強いね、りんちゃん!」
さらに無邪気に笑う舞の言葉が、チクリと胸の奥に刺さる。