第11章 【秀吉・前編】
「勝手な真似をして申し訳ございませんでした」
「いや、お前が隠してくれたおかげで助かった。俺の隠し場所は信長様にすっかりばれていたようだからな」
「ええ…」
「それにあの書置き、最高だったな」
「アハハ…っくしょっ!」
笑いながらも、またしても竜昌がくしゃみをした。
「おっと…」
秀吉は自らの羽織を脱ぐと、後ろからそっと竜昌の肩にかけた。
「あ、わ、私は大丈夫です!!」
秀吉は、断ろうとする竜昌の肩に手を置き、やさしく前に押した。
「いいから。たまには俺に世話を焼かせろ」
「は、はい…」
竜昌は恥ずかしそうにうつむいた。羽織にかすかに残った 秀吉の体温と煙管の匂いにふわりと包まれると、竜昌の心臓がドクンと脈を打った。
そうこうしているうちに、ふたりは竜昌の部屋の前にたどり着いてしまった。
羽織が落ちないように襟を押さえていた竜昌の手に、離したくないというように、ギュッと力がこもる。それでも竜昌はしぶしぶと障子を開け、部屋の中に入った。
後から秀吉も入ると、中はおよそ女らしくない、飾り気のない無骨な部屋だった。
「少しお待ちください」
そういうと、竜昌は文箱を開けた。中には硯と数本の筆、そして懐紙に包まれた金平糖が入っていた。竜昌はその包みを両手でうやうやしく捧げ持ち、秀吉に手渡した。
「どうぞ…」
「うん、ありがとな」
秀吉はその包みを懐にしまった。
「あ、あとこれも…」
竜昌は羽織を脱ぎ、秀吉の後ろにまわると、その肩にかけてやった。今度は竜昌のぬくもりが、秀吉へと移る。
「ありがとうございました」
すると秀吉が肩越しに竜昌を振りかえった。優しい光をたたえた鳶色の瞳が、竜昌を覗き込む。
「髪がびしょ濡れじゃないか。拭いてやろうか」
「えっ?」