第11章 【秀吉・前編】
「大丈夫か?」
窓の外から声がする。
「うん、大丈夫だよ与兵衛。あとは片付けておくから先に寝てて」
そう返事はしたものの、どこかに感じる違和感。
『ん…?この声は…』
「俺だ、竜昌」
「ひっ秀吉様!?」
慌てて湯船から立ち上がり、窓の格子を掴んで外を見ると、窓の外に立っていたのは風呂番の与兵衛ではなく秀吉だった。
秀吉は竜昌の姿を認めると、恥ずかしそうに目を逸らした。
「ごめんな、風呂に入ってるところを」
「いえ、いかがなされましたか!?」
「…信長様の金平糖を隠したの、お前だろ?今日はどこへ隠した?」
「!!!」
竜昌の仕業であることはお見通しのようだ。
再び竜昌がくしゃみをする。
「大丈夫か?すまない、このままじゃ湯冷めさせてしまうな」
「平気です。申し訳ありません、金平糖は私の部屋にあります。いま上がりますから少々お待ちください」
窓から竜昌の姿が消え、ジャバジャバと竜昌が湯船から上がる音がした。
「あわてなくていいんだぞ」
そう声をかけつつ、秀吉は脱衣所の方へ回り、竜昌が出てくるのを待った。
「お待たせしました!」
身支度もそこそこに、竜昌が脱衣所から姿を現した。
濡れたままの髪を一つにまとめて頭の上に結い上げ、まだ少し湿った肌に浴衣をざっくりと羽織っている。
大きく抜かれた襟からのぞくうなじは、艶めかしい曲線を描いて肩の方へ落ちている。いつもならさらしで締めこんでいる胸だが、今は薄い浴衣越しにその存在を主張していて、秀吉は思わず生唾を飲みこんだ。
竜昌は視線で秀吉をうながすと、手拭いを片手に自室のほうに歩き出した。