第9章 【三成編】
「秀吉様は、お行儀にうるさいし…男はみんなやっているのに、なんで私だけ廊下を駆けてはいけないんだろう…」
「ふむ。(姫は普通、廊下を走りませんからねえ)
」
「政宗様は、剣術の稽古をしても手加減して下さるし…私を男だと思って本気を出せって言ってるのに」
「ふむ…(政宗様は本気でやっても竜昌に敵わないのでしょうねえ)」
「舞様などは、隙あらば私に女物を着せたり、化粧をさせようとするし…」
「ふむ…(それは私もちょっと見てみたい気がしますねえ)」
「光秀様は光秀様で、『おまえはどこまで男を知っているのだ?』とかなんとか言いながら髪を触ってきたりして。舞様曰く、それは『せくはら』?とか何とかいうおなごへの嫌がらせの一種だとか?」
「ふむう…(それはちょっといただけませんねえ)」
「家康様は、私がちょっとでも傷をつくればすぐに捕まえて、ほれこの通り」
竜昌は袖をまくって、腕にぐるぐると巻かれた包帯を見せた。
「単なるかすり傷なのに…」
「ふむ…(跡が残っては大変ですからねえ)」
「だから、この安土で私を女扱いしないでくれるのって、信長様と三成だけ」
「ふむ…(あの方は成果主義ですからねえ)」
「あ!そういえば信長様に夜伽を命じられたことがあったっけ」(※P17参照)
そのとき、急に三成が書物から顔をあげ、竜昌の顔をじっと見つめた。
その澄んだ菫色の眼差しが、心の内を見透かすように竜昌を射た。
まさか三成に反応してもらえると思ってもいなかった竜昌は、わずかに心臓が跳ねるのを感じた。
「ではつまり、竜昌を女人として扱わないのは、この安土で私だけ、ということですね?
「う、うん。そう」
「それは困りましたね…」
「ううん!困ってない!むしろ有難い!」
竜昌は手をついて半身を起こし、三成の顔を覗き込んだ。