第8章 【家康・後編】※R18
「…賑やかになりそうね」
「はい、お方様」
於大の方と酒井が微笑みあう。
全く事情を知らされていなかった直政も、空気を察したらしく、腕を組んで溜息をついた。
「まったく、二人とも素直じゃないんだから…」
「お待ちください、家康様」
駿府城の本丸へと続く道を駆けながら、家康と竜昌の二人は満面の笑顔だった。
駆けてゆく家康の背中の向こうには、白い雪を頂いた富士山が見える。
「りん…」
家康は走る速度をゆるめて、振り返りながら竜昌に手を差し伸べた。
「…それで?まだ本多の側室になる気なの?───俺の正室より?」
「!!」
それを聞いた竜昌はその目にうっすらと涙を浮かべながら、差し伸べられた家康の手を握った。
優しく竜昌を見つめる家康の翡翠色の眼は、秋の空よりも、駿河の海の色よりも澄み切っていた。
<完>