第8章 【家康・後編】※R18
─── エピローグ ───
その後、家康を総大将、竜昌を副将とした徳川軍は、秋津国に侵攻してきた高城軍を見事に撃退し、勢力を強めつつあった上杉・武田連合軍を抑え込み、安土や京への進撃を阻むことに成功した。
そのまま安土に凱旋した竜昌は、その功績として褒美を得るかわりに、徳川家への移籍を申し出、信長はそれを快諾した。
竜昌は、新たに主君となった家康から、正式に秋津城の城主として任命された。再び城主として竜昌を迎えることになった秋津国はお祭り騒ぎとなった。
そして、竜昌は城主の身でありながら、正式に家康の正室として徳川家に嫁いでいった。
後に三河地方のわらべうたに『徳川の 殿様は お城とられて 嫁とった』と謳われたという。
やがて二人の間には、本多忠勝が予言(?)したとおりに、二人の男児が誕生した。
長男は桐丸、のちに徳川家昌として元服し、家康の後を立派に継いだ。
次男は藤丸、のちに藤生姓を継ぎ、藤生武昌として次の秋津城主となった。
「ねーねーちちうえさま、きりまるにも ゆみをおしえてくださいませ」
「ふじまるもー!!」
駿府城の弓場で、久しぶりに弓の稽古をしていた家康の姿をみて、二人の幼い息子がじゃれついてきた。
「二人とも弓を射てみたいの?」
家康は二人の顔を覗き込みながら、その頭を優しくなでた。柔らかな猫っ毛は家康譲りだ。
「はい!」
「アイ!」
「じゃあ、そこのお姫様にお願いしてみようかな?」
そう言って家康は、少し離れた場所で三人の姿をにこやかに眺めていた竜昌を指さした。
「ははうえさまも、ゆみがおじょうずなのですか!?」
まんまるな目をキラキラさせながら、桐丸が問う。この太平の世の中に生まれた霧丸も藤丸も、母・竜昌が弓を射る姿をいまだ見たことがなかった。
「うん、母上様も弓が一番の得手…なんだよね?りん」
「はい!」
輝くばかりの笑顔で、竜昌は答えた。いつか安土で交わした言葉とその時のときめきが、竜昌の胸にありありと蘇った。
『家康様も…ですか?実は私も一番の得手は弓なんです』
─── エピローグ 完 ───