第8章 【家康・後編】※R18
竜昌は照れ臭そうに頭を下げた。
「皆様、よろしくお願いいたします。この身命を賭しても、駿河を守り抜く所存にございます」
「これは願ってもいない。竜昌殿がわが軍に加わればまさに千人力!」
「まことに。これで上杉・武田、恐るるに足りんですなあ」
「足ひっぱるなよ!?竜昌」
「それはお前のことだぞ、直政」
本多がぽかりと直政の頭を叩く。
「いてーなクソジジイ」
直政が本多に噛みつこうとしたその時、酒井が竜昌たちの後方を見て声を上げた。
「あっお方様」
四天王が揃ってひざまずく。竜昌も反射的に振り返って、ひざまずいた。お方様とは、家康の生母、於大の方に違いない。
「あらあら、朝から楽しそうね」
「母上、お帰りでしたか」
「ええ、昨日の晩にね」
竜昌が手をついて、於大の方に深々と頭を下げた。
「お方様、お初にお目にかかります。安土より参りました藤生丹波守竜昌と申します。本来なら直にご挨拶に伺うところ、ご不在のためご無礼仕りました」
「水崎殿からの文、確かに頂戴しました。よろしくお伝えしておいてね」
「はっ」
竜昌が地面に手をついたまま顔を上げる。
「っ、ああああああああぁぁ!?」
於大の方の顔をみた竜昌が、突然 素っ頓狂な叫び声をあげた。
「?」
不思議そうに竜昌を見る家康と四天王。於大の方は、人差し指をたてて唇に当て、ニッコリと微笑んだ。口外無用、という意味だろう。
於大の方とは、昨日 竜昌が雨宿りさせてもらった寺で会った、尼僧その人だった。