第8章 【家康・後編】※R18
竜昌の腕には、戦や稽古でついたであろう、まだ生々しい傷跡や青あざがいくつも残っている。
「自分は大事にして。主が自分を大事にしないと、家臣もそれを真似して命を惜しまなくなる」
「!」
「そういうのは不本意でしょ?」
こくりと頷く竜昌。
家康は満足そうに笑うと、竜昌の腕の傷の一つに、そっと触れるだけの口づけを落とした。
びくりと竜昌の身体が反応する。
「ごめん、痛かった?」
竜昌は首を振る。
すると家康は、再び竜昌の腕の傷に口づけ、次に舌先でちろりと舐めた。甘い疼きが下半身に満ちていく。
「ンッ…」
ついに我慢しきれず声を上げてしまった竜昌。自らのはしたない声に、顔がみるみるうちに真っ赤になっていった。
「あともう一つは…」
家康は片手で竜昌の顎を持ち上げ、その顔をしげしげと眺めた。
「こんなに色っぽいのに、本人がそれに無自覚ってこと」
「そのようなことは…!」
「ほら、そういうところ」
何か言いかけた竜昌の唇を指で押さえ、黙らせる。
「他の男が、りんのことどういう目でみてるか。もうちょっとだけ気にして。そうじゃないと、嫉妬で俺の頭がおかしくなりそう。」
竜昌が黙ってうなずく。
「いい子」
家康は指の背で、竜昌の頬をそっと撫でた。
「俺も、りんを離したくない。できればここにいてほしい。でも、りんは信長様の家臣だ。やはりここは一度、安土に帰るべきだ」
「はい…」
「この戦がひと段落したら、安土に迎えにいくから…」
「…!」
「だから、今夜だけ…」
視線を伏せ、竜昌は再び黙って頷いた。
─── ◇ ─── ◇ ───
月明りの駿府城内を、家康に手を引かれて歩いてきた竜昌は、気づけば人払いされた家康の寝所にいた。
布団の上に立ち、あらためて向かい合うが、お互いに気恥ずかしくて視線を合わせることが出来ない。