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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第8章 【家康・後編】※R18


「俺は…アンタが笑ってくれると嬉しい。安土に来たころからずっと気になってた。アンタ、あんまり笑わないから…」
竜昌は驚いて息を止めた。安土に来て、知らず知らずのうちに緊張していたことを、家康は見抜いていたのだ。
「…でも、秋津では本当によく笑ってた」
そう言って、秋津に帰ったときのはしゃぐ竜昌の笑顔を思い出すと、家康の唇にも自然に笑みが浮かんだ。
その美しい笑顔に魂を奪われたように、竜昌は呆けた顔で家康を見つめていた。
「できれば、アンタには泣かないで、秋津にいるときみたいにずっと笑っていてほしい。そのためならなんでもする」
「家康様…」
「教えてくれない?どうして泣いてたの?」
家康の深い湖のような瞳には、竜昌を気遣う優しい光が満ちている。その瞳を覗き込んでいると、止まったはずの涙が、再び湧いてきた。
やがて竜昌は、覚悟を決めたように、ぽつぽつと語り始めた。
「…本当は…本当は…家康様のお側から離れるのが…名残り・・・惜し…」
家康は、俯いて言い淀む竜昌の顔を、両手ではさむように包み込んで顔を上げさせ、流れ落ちる涙を親指で拭った。
「私は昔から、女だからと蔑まれることも、多々ございました…あの競射の時のように。でも、家康様はそれに怒ってくださいました」
「…」
「…あの時から…ずっとお慕い申し上げておりました…秋津ばかりかこの駿府にまで家康様のお共させていただき…それだけで私は日ノ本一の果報者だったはずなのに…いざ安土に帰るとなると、欲が出て、離れがたくて…」
半ばしゃくりあげながら、竜昌がそう言うと、家康はつまらなそうに口を尖らせ、溜息をついた。
「あーあ、先に言われちゃった」
「えっ!?」
「で、ちょっと、よくわからないんだけどさ」
家康の機嫌を損ねたかと思い、竜昌は唇を引き結んだ。
しかし家康はふとその表情を緩め、悪戯っぽく竜昌の顔を覗き込んだ。
「それで、なんで本多の側室なわけ?」
「そ、それは…!」
視線をそらして再び俯こうとする竜昌の顔を、家康はさらに両手でぐいっと持ち上げた。
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