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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第8章 【家康・後編】※R18


もう一度、確かめるように家康が問うと、竜昌はやっと重い口を開いた。
「申し訳ございません、安土に帰るのが名残り惜しくて…」
「本当に?それだけ?」
「…」
「言わないつもり?」
竜昌は黙ったまま涙を流し続けた。手を家康に捉えられいるため、頬を拭うこともできず、雫はぽたぽたと着物に落ちて小さな染みをつくった。
「…人前では泣かないって決めてたんじゃなかったの?」
胸に秘めた誓いを見破られた竜昌の目には、絶望にも似た色が浮かんだ。
「なぜ…それを…」
それを見た家康は少し気まずそうな表情になり、ゆっくりと竜昌の両手を放した。そして自らが着ていた梔子色の羽織を脱ぐと、竜昌の泣き顔を隠すように、竜昌の頭から被せた。
「ごめん…菊殿から聞いた」
竜昌は、視界を遮られ、家康の匂いのする衣に包まれ、やがてふわりとその上から温かく包み込まれるような圧力を感じた。
気付くと、家康が羽織ごと、竜昌をその胸に抱きしめていた。
「俺の前では、泣いてもいいから…」
「…!」
家康は、竜昌を抱きしめたまま、羽織越しにその頭をそっと撫でた。
そのとき、家康は抱きしめた竜昌の懐に、なにか固いものが入っており、それが自分の胸にも当たっていることに気づいた。そっと竜昌の身体を離して、胸元を見る。
「これは…?」
竜昌が慌てて懐に手をやる。出てきたのはいつか家康からもらった、傷薬を入れたガラスの小瓶だった。
「申し訳ございません。お怪我はございませんか?」
「どうしてこんなものを?」
「いつも肌身離さず持ち歩いております故…」
家康の羽織を頭からかぶったまま、消え入りそうな声で竜昌がそう言うのを聞いた家康は、大きくため息をつくと、突如、両腕で竜昌の腰をぐっと引き寄せ、その身体を一気に抱き上げた。
「家康様!?」
そして家康は竜昌の身体を抱えたまま、黙って弓場を横切り、三の丸の北の曲輪(くるわ)に向かって歩き出した。
「家康様、おろして下さい。自分で歩けます!」
「だーめ」
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