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【イケメン戦国】夢と知りせば覚めざらましを

第8章 【家康・後編】※R18


一度 頭を冷やすために部屋を出ると、雨上がりの澄んだ空に十六夜の月が輝いていた。
これならさぞかし富士山も美しく見えるだろうと、家康は城内のお気に入りの場所に向かって歩き始めた。
月明りに照らされた道を歩き、遠くに富士山を眺めながら、三の丸を目指して歩く。
『あれは…』
途中にある弓場に人影が見えた。あの小洒落た文様の小袖には見覚えがあった。家康の胸が微かに疼く。
気取られないように近づくと、やはりそれは例の、政宗にもらった着物を着た、竜昌だった。
『厩とは反対方向なのに…』
竜昌は、矢をつがえ、何度も的に向かって射ていたが、そのほとんどが的を外れ、弱々しく地へと落ちるものすらあった。
あの安土で見た競射での堂々とした竜昌と、同一人物とは到底思えない。練習用の使い古した弓矢とは言え、あれほどの腕前の者なら、通常 道具は選ばないものだ。
しばらくすると、竜昌は袖口で目元を拭うような仕草をした。そしてまた何度か矢を射ると、また拭う。
もしやと思ってそっと背後から近づくと、気配を感じたのか、急に竜昌がこちらを振りかえった。家康の予想どおり、その頬には、涙の筋が月の光を反射して銀色に輝いていた。
「…!!」
家康の姿を認め、動揺して思わず矢を取り落とした竜昌に、家康は歩み寄り、まだその左手に持ったままだった弓をそっと取り上げた。
「家康様…どうしてここへ…」
「それはこっちの台詞。アンタこそ、なんでこんな所で泣いてるの?」
「あっ」
竜昌は慌てて両方の袖口で顔を拭った。
「な、なんでもございません」
「なんでもないわけないでしょ?」
家康は、竜昌の両手首を掴んで引き寄せ、その顔をまじまじと見た。
黒緑色の瞳は涙に濡れ、月の光を湛えながらまっすぐに家康を見ていた。二人の視線が絡み合う。
竜昌も家康を見つめ返す。恥ずかしさのあまりいつも逸らしていた目線だが、今だけは逸らすことができない。
理由を言うまで離さない、とばかりに、家康は竜昌を掴む手に力をこめた。
その間も、竜昌の美しい瞳から、涙の粒がぽろぽろと零れ落ちてくる。
「何で、泣いてるの?」
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