第1章 1
私の一言に観月がぴくりと反応したのを確認して、勝ち誇った笑みを浮かべ、続ける。
「相談できる雰囲気づくり、というのは実に大事だからね。相談してもらえなくて観察一辺倒にならないように気をつけないと、ね?」
観月の口の端が引き攣るのを確認し、私はひとときの満足感を味わう。
「……まったく、いつもながらああ言えばこう言う人ですね貴女は」
ふ、と息をもらして、観月が決まり文句を呟いた。終わりの合図……ひいては、負けを認める一言だ。
降参を受け容れるべく、背もたれにもたれてふふん、と踏ん反り返る。
さて今日はどんな顔をしているやら、負けて悔しがる顔でも見てやらないこともないと思ったのだが、観月としては気がおさまっていなかったらしい。
そのまま、今度はどちらが言いすぎたかという言い合いになり、今に至るわけだ。
「ほんと忙しいくせにヒマだよねあんたたち。
ふざけてやってる方がまだいいわ」
耀美の第一声はそれだった。
……別に、お互い、本気で言っているわけではない。
あちらも、もちろん私も、寮生が快適に生活できるように心を配っているし、相手もそうしていることを疑っていない。
ただ、そう、負けたくないと思うのだ。
寮のまとめや部内のまとめ、立場はよく似ていても私たちは違う。
相手が違う。私と観月だって、もちろん違う人間だ。
だからロジックが違う。アプローチが違う。
それでも、問題を解決するというゴールは同じ。
中身が違うのに、外から見えるものが似通っているから、その外見で負けたくないと思うのだ。
見栄や意地なのかもしれない。
……これも、本気かな。
「……ふざけてやっていますよ。
わざわざ本気でするような話ではないでしょう?」
前髪をいじる指の向こうで、少し視線が逸らされる。
この男も同じようなことを考えたんだろう。
気がついたら、私の指も肩口で切りそろえた髪の毛先をいじっている。
それ以上何を話すでもない私たちを見やって、耀美はぷはぁと大きな溜息をついた。
そのまま大きく息を吸って、全身で「呆れた」を表現しながら口を開く。
「まったく!
そんなバカバカしいケンカするより先に、アンタたち言うことあるでしょ!好きとか!」
「はあ?」
「何ですって?」
思わず間の抜けた声が出た。