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とても言えない

第1章 1


「ほら、言ってみたらどうです?」
「はっ、誰が。そちらこそ言ってみたらいいじゃないか」
「んふっ、沖田さんにお譲りしますよ」
人気のない談話室の片隅、観月と私の間で火花が散る。
目をそらしたら負けなのは野生のならいだけれど、そういう意味では私たちもまた身の内に野生を宿しているのだろうと思う。
こんなことで実感されても、野生からしたらふざけるなというところかもしれないが。

じりじりと睨み合う私たちの横で、耀美が呆れた顔をして立っている。
「ごめんよ、よみ。立たせたままにしてしまったね」
「いや別に、立たせたままってかここに座りたくないし。今日は何でもめてんのさ」

何をしていたかといえば、自主的な寮長会議だ。
寮監の先生への報告会ではトラブル対応まで話している時間がないことが多いので、月一程度で話す時間をもつようにしている。
割に役には立つのだが、どうも観月と話していると「役に立つ」だけで終わらない。

「まあ、いつものと言えばいつものことだよ」
「んふっ、その通りですね。貴女が謝らないことも含めて」
「謝る?謝るのは私ではなく君だろう観月」
前髪を指にくるくる絡めて溜息をつく観月の態度は大変腹立たしい。この男は本当に一言……いや、一言ではすまなかった。燗に障る態度だ。
「ぅぉい!また睨み合う!!
もー、話してみ!聞いたげるから!」
「いつも悪いね、よみ。この分からず屋のせいで」
「そっくりそのままお返ししましょう」
「そういうのほんっともういいから!!はい!」



今日は、いかにしてトラブルを早期発見するかという話をしていた。
とかくトラブル、特に人間関係絡みのものは、時間が経てば経つほどこじれて面倒になるものだという話から始まったのだが、そこでこの男はこんなことを言うのだ。
「普段からの観察でほぼほぼ芽は摘み取れますね。まあ、寮生からの報告頼りのあなたには難しいかもしれませんが」

腹立たしいじゃないか。私にだって自負がある。
「報告頼り。ふむ。
まあ、うちのかわいい寮生たちが私にたくさんのことを知らせてくれるのは事実だよ。知らせてもらえない君と違ってね。人望の差かな?」
だから言い返すのは正当な権利だと思うんだ。
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