第10章 愛しているから
遥side
「あの時、お前と出会ってなかったら姉を助けに行って無かったと思う。」
あの時の男の人、中原さんだったんだ。
「・・・姉を助ける為に、俺は猪田に手を貸した。坂間さんの弱みを見つける事。情報を全てこっちの組に伝える事。組を裏切った瞬間、姉は殺される。」
「・・・そんな事があったんですね。・・・何も知らず・・・すみません。」
「いいんだ。・・・俺が悪い。」
大切な人を守るためなんだ・・・
中原さんは前にそう言っていた。
お姉さんの事だったんだ。
「・・・まさか、こんな感じでお前と再会出来るなんて・・・最悪だ。初めて会った時から俺はお前の事が好きだったんだ。それなのに、坂間さんの弱みだなんて・・・殺しの対象だなんて。」
「・・・中原さん、ありがとうございます。話してくれて。」
嘘なんてついてなかったんだ。
「けど、これがバレたら中原さんのお姉さん・・・まずいんじゃ・・・」
「・・・俺の初恋を諦めるなって言われたんだ。だからと言って姉を殺させはしない。ここから出す。」
中原さんはやっぱりいい人だった。
色んな事を犠牲にしてまで僕やお姉さんを守ろうと。
自分の命の事なんて全く考えていない。
「その薬は副作用が出るかもしれない。完全に治るわけじゃ無いが、少しは違うと思う。・・・お腹の子はどうだ?」
「・・・それが・・・全く動かなくなったんです・・・」
「・・・そうか・・・けどまだ分からないな。遥、諦めるな。きっと、助かる。皆。あの人なら何があろうと無理をしてまでここに辿り着くはずだ。それまでは俺を信じて守らせてくれ。」
「・・・僕は・・・ずっと信じてますよ。」
無理だけはしないで欲しい。
1番悲しむのはお姉さんだろうから。
中原さんが立ち上がり、そろそろ行くと部屋を出ていってしまった。
「遥、俺最低な奴だ。あの人のこと何も知らずに。」
「それは僕だって一緒だよ。けど、もう違う。信じていようよ。」
だからって頼ってばっかりじゃ駄目だよね。
もしかしたら簡単に出れるかもしれない。
僕達が自分で脱走したら、中原さん達には被害は及ばないはずだ。
「僕達も・・・負けてられないね。」