第9章 信じるべきは・・・
中原side
俺だってあんなことしたくない。
愛する人を自分の手で傷付け苦しめるなんて。
けど・・・
「智哉。そんな暗い顔してどうかしたの?」
「・・・ううん、何でもないよ。姉ちゃん。」
この建物の1番奥の部屋。
ここには俺の姉が監禁されている。
特に悪い事をした訳でもない。
この組織とは無関係。
人質としてここに連れてこられた。
たった一人の家族だ。
「嘘つき。何もなかったって顔じゃないでしょ?・・・アイツらに何されたの?」
姉にはお見通しだ。
「俺は何もされてない。」
「・・・もしかして、遥って子のこと?」
「・・・うん。前に話したΩの奴。」
「何したの?」
姉が俺の元に近づき手を握る。
さっきこの手で、遥を苦しめた。
手が震える。
「智哉、答えて。私はあなたの味方よ。」
「アイツに・・・命令されたんだ。注射器を渡されて、遥に打てって。初めは躊躇した。けど、その後に姉ちゃんを殺すって脅されて・・・言う通りにするしかなかった。」
「そう・・・」
「遥の事は好きなんだ。本気で。けど、家族をこれ以上失う方が怖い。」
両親はアイツに殺された。
残ったのは俺と姉だけ。
「智哉、辛かったよね。」
「・・・うん。」
「ごめんね、私が弱いせいで。足でまといになってるよね。」
「それは違う。俺が弱いだけだ。この仕事をしてるのもこういう事を覚悟した上だ。」
「・・・守ってくれてありがとうね。凄く嬉しいよ。でもね、好きな人を自分の手で殺めちゃダメ。そこは私じゃなくて、その子を優先して。」
「でも・・・それじゃ・・・」
姉が抱きつく。
懐かしい。
暖かい。
こんな気持ちはいつぶりだろう。
「姉ちゃんは大丈夫!だってアンタの姉だよ?・・・気にせず自由に生きな。じゃないと姉ちゃん心苦しいよ。」
「・・・うん・・・」
何度も逃げ出そうと思った。
けど、俺の力だけじゃ敵わない。
俺はどうしても姉の前だと弱くなっちまう。
普段、強がってるだけだ。
本当は弱いくせに。
大切な人1人守れないくせに。
「・・・諦めちゃ駄目よ。初恋なんでしょ。」