第8章 Shall we dance、LittleLady
気付いたら俺の隣には姉君が居た。子供の頃はその膨大な魔力のせいで姉君は病弱気味で。親父の目を盗んで母親が姉君を療養にと何処かへよく連れてってたのを覚えてる。対して俺は健康優良児だし男だから親父から厳しく指導は受けたものの自由だった。
そのせいか昔から姉君は俺と違って聞き分けが良かった。お転婆だったけど親の言う通りに学んで鍛錬していたし、怒ったり泣いたりした所なんて見た事も無かった。両親に反発的な事をしたのだってアネゴレオンと一年間旅をしたって事くらい。
そんな姉君が初めて怒った。
『婚約者を決める夜会!?ふざけないで。絶対参加しない』
ガシャンとひっくり返ったティーカップがクロスにじんわりと染みを作る。
「これはもう決定事項だ」
『はぁ?娘の人生を勝手に決めるクソみたいな父親が何処に居るっての?あぁ…此処か。我が父親ながらクソ過ぎて言葉も出ないわ』
「品が無いぞ。口を慎め」
『………ちっ』
と小さく舌打ちして椅子に座り直すと使用人が手際良く掃除をして新しいティーカップに紅茶を淹れる。
『そもそも何故父上がお決めになるのです?我がシャネル家の当主は母上のハズですが?』
「此奴は妹に負け分家に成り下がった身だ。偉そうに口を開ける立場では無かろう」
「………」
ピクリ、と姉君の片眉が上がる。ヤバい雰囲気を感じて腰を浮かすが姉君は浅く深呼吸をして気を静める。良かった…乱闘にはならなさそうだ。ただ仔犬フェンリルが親父に対して殺気立ってる気がする。
「チェリー。お前が婚約者を取りシャネル家当主となって本家に返り咲け」
※※※
アタシ達一族には沢山の親戚がいる。沢山の親戚って言っても他国に居るから会った事は無い。数年に一度、その国々の当主達が会議などを行うらしい。そして十数年か数十年に一度、本家になる家を決める。ルールとしては当主達の魔力量、人材力、経済力など諸々。そして…その当主達の子供達…つまりは時期当主となる者の潜在能力で本家になれるかどうかが決まる。
本家になれば一族の指揮権を得られるし本家の当主となれば無論、一族のトップと言う訳だ。元々本家だったクローバー王国のシャネル家は十数年前のアタシが産まれるか否かの時に分家に下がってしまったらしい。