第7章 In the fog、LittleLady
その日は何かがおかしかった。とても重要な来客とかで両親は仕事を休んでまで接待。信頼されている数少ない上位の使用人達ですら、どの様な来客かは知らされてないみたいで。その来客は三日ほど居たのだが…その三日間、姉君は仕事を詰めて家には帰らずだった。
恐らく何かを知ってるのだろうけど聞いても"書類が溜まってて忙しかっただけ"といつも通りクールに遇われた。
「ちーっす!ふあ…眠…」
「おは…早いですねシェリー」
大欠伸をしながら団のアジトに行けばウィリアムが迎える。驚いたような声色で挨拶されたけど果たして本当に驚いてるかは仮面を被ってるから分からない。謎い新人だ本当に。
「珍しい事もあるもんだね」
「うるせぇ。ちと家の居心地が悪かっただけだよ」
両親ってゆーか親父のピリピリしたあの刺さるような魔力。来客と何かあったんだろうけど…聞いても話さねぇし八つ当たりされるし。
「そう言えば姉君は?今日も家に帰ってなかったんだけど」
「そうなのかい?僕が来た時にはいらっしゃらなかったけど…」
「…マジ?」
「うん」
家にも帰ってないし、こんな朝早くにどこ行ったんだ?あのお転婆姉さんは。
※※※
朝霧に包まれた幻想的な妖しさを放つ深い森林。丁度クローバー王国とハート王国と強魔地帯が合わさる境目の警備の仕事を終え戻る前に湖畔で休憩していた時だった。複数の足音が聴こえ木陰で息を潜める。
「ここまでで大丈夫。送ってくれて有難う」
『………うん』
(あれは…チェリー?)
濃い朝霧で姿はハッキリとは確認出来ないが凛とした聞き心地の良い声は間違い無くチェリーのもので。極限まで気配を決して物音を立てない様にゆっくりと近付く。
「また少し背、伸びたんじゃない?」
『どう…だろう?あまり変わらないと思うよ』
小柄な初老の女性と…やはりチェリーだった。その女性と話すチェリーは見た事無いくらい穏やかで優しい表情をしていて声色も酷く優しかった。
「早く帰りなさい。皆が心配するんじゃない?」
『うん。気を付けてね、---』
(!)
その言葉にハッと息を飲みそうになると突如として現れた影に口を押さえ付けられるが抵抗はしない。良く知った人物だったのだから。
(姉上…!)