第5章 試験×ノ×開始
……今だ!
気配を消すのは結構得意である。
茂みからバッと現れた私にウサルーも驚いている。
しかし直ぐに我に返ったウサルーは一目散に走り出した。
私も直ぐさまウサルーの後を追いかける。
後は方向転換する時を待つだけ!
動きに細心の注意を払ってタイミングを見計らう。
そしてついにその時が来た。
一際身体を丸め、わずかに右へとその身を傾けた。
右か!
右手をグッと伸ばして行き先を遮る。
キキッ!
そして、想定外の事にバランスを崩したウサルーは、無事私に捕まったのであった。
「やったー! ウサルーゲット!」
良し! 後は試験官のもとへ連れて行けば……
「うっ!?……な、いっ…た」
何か強い衝撃によって地面に叩きつけられた。
背中に鈍い痛みを感じる。
「悪ぃな嬢ちゃん。 こいつは貰ってくぜ? あっはっはっはっは!!」
私、攻撃されたんだ………
あの…………………
…………クソ野郎にッ!!
「………ぅ、うぅあ"あぁあぁ"!!」
「!?」
背後からの攻撃に対して怒ってるんじゃない。
あいつは私の獲物を横取りした。
獲物を横取りされたのは初めての経験で、腹の底から何かが込み上げてくるのを感じる。
「かぁ"えぇ"せええ"ぇえ"ーーッ!!」
殺す!
頭を粉々に砕いて殺してやる!
「ヒィィッ!!」
男の頭目掛けて拳を突き出す。
しかし、腰を抜かした奴は私の拳を受ける事はなく、代わりに背後の木を吹き飛ばした。
「す、すす、すまなかった!どうか、どうか命だけはた、助けてくれぇ!!」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
自身が強いと認めた男との戦闘以外で、相手が戦意を失ったら見逃さなければならない。
戦闘意欲の無い者を殺すのは恥とされているから。
でも今の私は、
「黙れ」
こいつを殺したい………
馬乗りになって髪を掴む。
頭を固定し、拳を振り上げる。
そして、泣き喚く奴の頭蓋骨を粉砕するための勢いで振り下ろす。
「っ!?」
否。
振り下ろす、はずだった。
「う、ごか、ない…」
見えない力で押さえつけられているような、不思議な感覚だった。
一体自分の身に何が起こっているのか全く分からない。
殺そうとしているこの男が何かしたのだろうか?
「………」
白目を向いて気を失っている……
じゃあ一体何が………