【YOI夢】ファインダー越しの君【男主&オタベック】
第3章 公私の国交
日本大使公邸に到着すると、正面玄関の前で出迎えていた初老の男性に、カザフスタン大使が嬉しそうに近付いた。
「篠くん、いや、篠大使。久しぶりですな!」
「貴方もお元気そうで。その笑顔は、昔から少しも変わりませんね」
にこやかに再会を喜ぶ2人を遠巻きに眺めていたオタベックは、やがてカザフスタン大使の紹介で、篠と呼ばれた日本大使の前に進み出た。
「ようこそお越し下さいました。貴方のご活躍は、日本のファンも注目していますよ」
「お目にかかれて光栄です、大使」
差し出された手を軽く握りながら、オタベックは卒のない会釈を返す。
「今宵は、最愛の奥方はどちらへ?」
「それが、数日前から少し体調を崩していてね。すぐ無茶をするので、代理を立てたのですよ。…守道、」
篠大使の口から発せられた名前に、オタベックは弾かれたように顔を上げた。
そんな、まさか。でも。
すると、篠大使の呼びかけに、別の場所で来客と話をしていたスーツ姿の青年が、こちらへ近付いてきた。
その人物の輪郭がハッキリすると、オタベックは声もなく目を見開いたが、青年は涼しい表情でカザフスタン大使に挨拶をする。
「末の息子の守道だ。今は、サンクトの大学に留学している」
「守道です。大使のお若い頃の愉快なお話は、父から良く聞いております」
「ほぅ…君にこんな年若い子供がいたとはな。立派な青年じゃないか」
「私は、兄達とは違い『何処に出しても恥ずかしい』愚息です。今夜は精一杯務めさせて頂きますので、よろしくお願い致します」
あまりの事に呆然とするしか出来ないオタベックを他所に、青年はもう一度会釈をすると、再び元の場所へと移動した。
自分を目にした時も表情一つ変えなかった彼の様子に、オタベックは一瞬「他人の空似なのか」と錯覚しそうになる。
しかし、彼の名前とあの顔は間違いなく。
「日本の篠大使は、昔から外交官の一族です。彼の息子さん達が、それぞれ内地と北米で職についているのは知っていましたが、もう1人いたとは…どことなく若い頃の大使に似ていました」
カザフスタン大使に連れられて公邸の中に入ったオタベックだったが、懐かしそうに語る彼の話を殆ど聞き流してしまう程、放心していた。