【YOI夢】ファインダー越しの君【男主&オタベック】
第3章 公私の国交
オタベックが、GPSロシア大会の欠場を決める2日程前。
約2年のロシア留学もいよいよ終わりが近付き、日本の大学に提出するレポートや、その他色々と身辺の整理を始めていた守道の元へ、モスクワにいる父親から電話が来た。
「珍しいですね。貴方が俺に直接電話を寄越すなんて」
「緊急事態だ。守道、済まないが急ぎモスクワに来てくれないだろうか」
「…何かあったんですか?」
聞けば、近日中に父親がちょっとした晩餐会を主催するのだが、風邪でダウンしている母親の代わりに、ホスト役について欲しいというものだった。
「母さんは大丈夫なんですか!?」
「熱は下がったし本人は頑張るつもりでいるが、無茶はさせられない」
「当然ですよ。風邪は治りかけこそ一番安静にしなければいけないのに、全くあの人は…」
ぶっきらぼうながらも母親を気遣う息子に、守道の父親は電話の向こうで小さく微笑みながら続ける。
「そこでだ。お前が代わりに出るなら、母さんも引っ込むだろう。特に急ぎの用がなければ、協力して欲しい」
父親の依頼に、守道は目を細める。
ピーテルとモスクワという、日本に比べればそう遠くない距離にいながら、留学中も彼らと顔を合わせるのは数える程でしかない。
多忙を極める彼らの事情もあるが、何より守道自身が近付こうとしなかったからだ。
正直避けたい案件だが、母親に無理はさせられないし、何だかんだ言って学生である自分は、彼らの世話になっているのだから、帰国前に親孝行の真似事をするのも悪くないかと思い直すと、守道はOKの返事をする。
「すぐにモスクワまでのチケットを手配しよう」と心なしか嬉しそうな父親の声を聞いて、守道は苦笑した。
翌日。
スーツに着替えたオタベックが、ホテルのロビーで待っていると、約束の時間に大使が現れた。
大使と一緒に車に乗ると、今宵のレセプションについて説明を受ける。
「レセプションと言ってもそんなに堅苦しくはなくて、君が普段参加しているバンケットのようなものですよ」
「そうですか」
「ホストの日本大使とは、ソ連時代からの付き合いでね。お互い駆け出しの書記官だった頃は、よく一緒にチープなスタンドでピロシキを食べたものです」
大使の皺まじりの笑顔を見て、オタベックも少しだけ口元を緩めた。