第1章 1
『ゆつきー!あんたもーなんていい旦那さん捕まえてもー……ああー、ごめんねえ深司くん。じゃあゆつきは置いておくけど、いつ頃になりそう?』
「あー……明日明後日は仕事が立て込んでるんで、土曜日には」
『はーいわかった!ああ、でもご飯とかは大丈夫?』
「大丈夫っす」
『そう?困ったら電話、ああでもご実家のが近い?まあ、何かあったらいつでも連絡ちょうだい。ほんとゆつきがごめんなさいね!』
「いえ。それじゃ」
『はーい。おやすみなさい』
電話を切って、一息ついて、冷蔵庫の漬物ゾーンを物色した。
無性にぬか漬けの気分だったけど、どれが食べごろか見分けがつかなくて味噌漬けのきゅうりで妥協した。
緑茶を入れて飲んだけど、ゆつきほど美味い茶が淹れられなくて、渋い緑茶で妥協した。
(……胃袋を掴まれるとか尻に敷かれるってこういうことだよなぁ……ぬか漬け食いたいなぁ……でも半端なやつ食べたらあいつ怒るしなぁ……)
ケンカしたこと自体は大したことないけど、こうやっていなくなられるのはやっぱ嫌だ。
(……どーしよっかな……やっぱ今から迎えに行こうかな……)
ぽりぽりきゅうりを噛みながら、俺の手は無意識にスマホの通話履歴を操作していた。
「……そーいうわけだけど、俺今から迎えに行くべき?」
『知るかよ!!そんな気になるなら迎え行けよ!!』
電話先の神尾にマジギレされた。……何でだよ。