第1章 1
『実家に帰らせていただきます。探さないでください。』
仕事から帰ったら、テーブルの上に置き手紙がしてあった。
「……昭和のドラマかよ。ていうか、実家に帰るんなら探す必要ないよなぁ……ほんとあいつ何考えてんのかわかんないなぁ……」
たぶん昨日のケンカが原因かなと思ったけど、ちょっと自信がなかったからさっさと飯田の実家に電話することにした。この時間だと携帯は出ないだろうから家電。
しばらくの呼び出し音の後、電話を取る音と同時に声がした。
『はいもしもし飯田です!』
ゆつきじゃん。
「……あー、し」
『おかあさーん、電話ー!』
間髪入れずに鳴り出す保留音にため息が出た。
事故にも程がある。
しかもこっちが名乗り終わる前に台詞かぶせてくるとか。ほんとなんなんだよ。
しばらくして保留音が鳴り止む。
『どうもお待たせしました』
「あー……夜分にすみません。深司です」
『あらあらあらまぁ深司くん!こちらこそお待たせしちゃってごめんなさいねえ!今日もお仕事お疲れ様。ところでどうせゆつきが何か馬鹿なことしたんじゃない?』
「あー……いや」
『ああいいのいいの、どうせゆつきが悪いに決まってるから。もーあんなの貰ってくれた深司くんには感謝しかないわー』
「いや、別に、何も」
……相変わらず、お義母さんはゆつき並みのテンションでまくしたててくる。口を挟む余裕がない。
『あっ、それであの馬鹿娘どうする?即叩きだそうかとも思ったけど、一応深司くんに聞いてからにしようと思って!まだ顔見たくないなら適当にしごいておく?それか交通費渡して追い出すでもいいけど』
話が逸れるかなと思ったタイミングで軌道修正してきたお義母さんに、一瞬口ごもりそうになったけど、ここで口挟まないと次いつ挟めるかわかんないから、落ち着いて口を出す。
「……いや、その、置いてもらっていいすか」
『あらー!いいの!?』
「その、……落ち着いたら迎えに行くんで」
『迎えに、』
ごそごそっと音がした後、名状しがたい音が聞こえてきた。……多分、悲鳴?歓声?を出す前に受話器覆ったんだろうな。あんま効果ないけど。