第16章 報告(後編) (☆)
水心子と清磨が部屋を出て行ってから数刻後
「……珍しいな。水心子も清磨も茶器をそのまま置いて行くなんて。 いつも几帳面に洗って片付けるってのに」
不思議そうに、テーブルに残されたままのティーセットを眺める、肥前忠弘。
「ふふ、清磨くんにそのまま置いておくように頼んでおいたからね」
「はぁ? 何でそんな事…」
南海太郎朝尊は、嬉々としてティーカップに手を伸ばす。
「血液は不可能でも、これで彼女の指紋とDNAは確保できるからね」
「はぁ? 一体何すンだよ先生…」
「いや何、ちょっと気になる事があってね……」
そう言って、持参した袋にティーカップを詰める。
勝手な事して上から怒られても知らねーからな、と肥前は溜息をついた。
そして、ふと、ある疑問が浮かぶ。
「そういや…清磨の奴が使ってた媚薬って……」
「おや、君も欲しいのかね? いくらでも用意しよう♪」
「やっぱ先生が作ったのかよ…」
「清磨くんに、どうしても、とせがまれてね」
『水心子には見られたくないから、短時間で済ませる必要があるんだけど…。あんなくだらない実験の為に彼女に痛い思いをさせたくないから…。即効性のモノって作れないかな? そうなれば、薬の効果で身体が解れるのも早いだろうし、彼女の身体の負担も減らせると思うんだけど…』
源清磨…彼も難儀な性格をしている。
朝尊は彼とのやり取りを思い出し、口元を緩ませた。
「何気色悪い顔してんだよ先生」
「失敬だね。さて、そろそろ戻るとしようか。早く仮説の立証をしたいからね」
そう言って、朝尊は足早に部屋を後にした。
「…ティーカップだけ持って行きやがった…。」
残された茶請けの皿と小さなフォークを雑に重ねて
肥前は朝尊の後を追って行った。
続く。