第11章 遠征
頬に手を滑らせども、血も、切り傷の痕すらも
そこには何も無かった。
「どうしたんだい? 主…」
「どうやら、疲れておるようじゃな。すぐに連れて帰ると良い。道中、気を付けてな」
「そうです! かえりましょう!!」
「うん。帰ろう? 主」
「あぁ…」
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帰り道。
普段通りを意識していても、なかなかそうはならなかったようで。
それでも、今剣くんや石切丸殿は深く追求する事も無く。ただ、左右両の手をそれぞれしっかり繋いでくれた。
それがとても暖かくて、嬉しかった。
それから翌朝。
寝不足の理由を三人で誤魔化して歌仙さんから説教を受け、鶴丸さんと光忠さんに慰められた。
「…なぁ大将」
わざと小さな声で、薬研くんは続けた。
「昨日の夜、何処かへ出掛けなかったか?」
「…いや、人違いじゃないだろうか?」
「…人違い、ね…」
それ以上は追求して来なかったが
ちょっとだけ、嘘を付いてしまった罪悪感が募る。
しかしこれも、みなの無用な心配を避ける為。
今剣くんと石切丸殿と、そうしようと決めたのだ。
そして、
この日も引き続き調査を行い
夕刻頃に引き上げて、みんなで仲良く本丸へと帰ったのだった。
続く