第12章 ~願いよ、風に乗って届け~
家康は戸惑うの言葉を無視し、その手を引いたままスタスタと歩き始める。
半ば引きずられるように家康に手を引かれながらも付いていくと、廊下の反対側から秀吉が歩いてくるのが見えた。
秀吉「ん?どっか出掛けるのか?」
(家康と一緒に出てきたところを見ると、今日は家康がの髪を結ったんだな)
家康「ちょっと城下まで行ってきます。この子も連れていきますが、俺がいるから問題ないですよね?」
秀吉「ああ…昼餉には戻ってこいよ」
家康「この子と違って俺は子供じゃないんで。ほら、行くよ」
「わっ!待って待って、家康!」
秀吉「おい、家康…あまり引っ張るなよ?がこけて怪我したらどうするんだ」
家康「怪我なんてされたら迷惑だし、城内だと足止めばかり食らうんで、こけない程度に引いていきますよ。外に出たらゆっくり歩くのでご心配なく」
家康はそれだけ言うと、の手を引き、秀吉の横を通り過ぎる。
「秀吉さん、行ってきまーす!」
秀吉「おう。気を付けろよ」
首だけ振り向いたと短い会話をすると、去っていく二人の後ろ姿を見ながら秀吉は深く溜め息をつき、
秀吉「足止めばかり、か。足止めしたくなるのは仕方ないだろ…」
そっと苦笑しながら呟くのだった。
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「ねえ、城下に行くの?」
家康「うん、そう。俺が結った髪に信長様の簪は似合わないから別のを買いに行くよ」
(そんなの嘘だけどね…あの簪だって、あんたにはよく似合う。けど、俺が結った髪に信長様の簪が飾られるのは気に入らない。…そんなこと、言ってあげないけど)
「……ふふふ、そっか、わかった!」
は家康の天邪鬼な性格を理解した上で、新しく小物を買ってくれると言う家康の気持ちに自然と頬が緩む。
家康「何笑ってるの」
「秘密ー!」
家康「……っ」
政宗「よー。二人で仲良く手を繋いで逢瀬か?」
あと少しで城門を潜る手前で家康は足を止めると、正に城内へ入ろうとしていた政宗と鉢合わせ、ニヤリと笑う政宗を前に家康はあからさまに迷惑そうな表情を浮かべる。