第12章 ~願いよ、風に乗って届け~
信長に髪を結ってもらった翌日、次は自分が髪を結うと告げた家康の部屋を訪れたは、昨晩から雨が降っていたこともあり、部屋の中で髪を鋤いてもらっていた。
家康「ねえ、実際どうなの?」
「ん?何が?」
家康「…あんたに気に入りの男がいるかどうかってやつ」
「あー……う~ん…」
家康「……何、その歯切れの悪すぎる返事」
想い人がいるのかと問われ、何ともはっきりしない返事に若干苛つきながら次の言葉を待つ。
「よくわからないの…みーんな大好きだから」
家康「それって、つまり……」
(想い人どころか、俺達全員に対して同じ気持ち。つまりは、恋仲の対象にすらなってないってことか)
「みんなにドキドキさせられてるし、戦にいくってなれば大丈夫ってわかってても、やっぱりみんなが心配だし…」
家康「ふぅん…じゃ、俺にもまだ望みはあるって事だよね」
「え?」
家康「ちょっと…まだ終わったなんて言ってないでしょ。ほら、ちゃんと前向いて」
家康の言葉に思わず振り向こうとしたの頭を優しく押さえて再度前を向かせる。
「う…うん、ごめん…」
(どういう意味だったんだろう…まさか……まさか、ね…)
は家康の言葉の意味をそれ以上考えまいと、言われた通りに前を向くのだった。
家康「結い終わったけど、簪か櫛か持ってる?」
「うん、ちゃんと持ってきてるよ!…はい」
は先日のピクニックで着けていた信長から贈られた簪を家康に手渡す。
家康「…またこの簪?」
「?うん、この時代に来て初めてもらった贈り物だから着けなきゃ勿体ないでしょ?」
家康「ふぅん…前に政宗さんに着けてもらったとき、何か言われなかった?」
「ふふふっそれがね、『今度は俺が買ってやる』って言われたの」
のその言葉を聞き、家康の心は焦りのような、怒りのような何とも言えない心地が全身を覆う。
家康「雨、上がったみたいだし行くよ」
「あ、ほんとだ、雨止んでるって…えっ、行くってどこに?家康?」
いつの間にか降っていた雨は止んでおり、障子から陽が射し込んでいた。