第9章 囲碁勝負ーーーーそして願い
「信長様の方が多いけど…でもどうにかすれば、どうにかなるかも…」
信長は手のひらでシャラシャラと碁石を擦り合わせながら、愉しそうにが持つ白い碁石の行く末を見守る。
ーーーーー
ーーーー
ーー
「……負けました」
信長「そのようだな。だが、此度の勝負はなかなか手応えがあった。褒めてやる」
「ありがとうございます…」
(うぅ~…どうしよう…あんなこと言わなきゃ良かった…)
夜伽を命じられる覚悟でその身を固まらせると、堪えきれないと言うように信長が声を出して愉しそうに笑う。
「信長様…?」
信長「貴様のそのような姿から全てを暴いて行くのも興を引かれるが、勝負を愉しめた褒美として今宵の夜伽を命じるのは諦めてやる」
(今、さらっと悪趣味なこと言ってた気が……でも…)
「本当ですか?!じゃあ他に何か願いはありますか?」
信長「ああ。だが、その前に確認しておきたいことがある。ここへ座れ」
信長は囲碁盤を片手で退けると、己の胡座の上に座るよう指示をする。
「それ…確認というよりも、それが願いですよね…?」
信長「確認だ。貴様が座ったら願いを言ってやる」
(なんか、うまく誤魔化されてるような気がするけど…願いを聞くって約束したし、仕方ないよね)
しれっとした顔で、胡座を指差す信長を見つめ、半ば諦めたようにそっと近付くと信長に背を向けるように胡座の上へ腰を下ろす。
信長はピクニックからの帰り道のようにを両腕で包み込むように抱き締めると、肩口に額を乗せる。
全身で信長の体温を感じ、頬を掠める髪にの鼓動は早鐘を打つ。
暫くの間、静寂が二人を包み込む。
「あのぅ…?」
信長「この俺が貴様に願うことは一つしかない。
………これからも俺の傍に居ろ。離れることは許さん。
元の世に戻りたいなどと考えずに済むくらいには貴様を守ってやる」
の身体をぎゅっと抱き締め、そう伝える信長に、はゆっくりと頷き信長の腕にそっと手を添え振り返ると柔らかな笑みを向ける。
「はい!これからも安土で皆さんの傍に居ます」
信長「ふっ…そのうち俺のために残るとその口で言わせてやろう」