第9章 囲碁勝負ーーーーそして願い
~安土城 天主~
パタパタパターーー
湯浴みを終えたは信長の部屋である天主の襖の前で立ち止まり、部屋の主に声をかける。
「信長様、です」
信長「入れ」
「失礼します」
いつものやり取りをした後、襖を開けて中へ入ると襖を閉め信長の元へと歩み寄る。
信長の前には既に囲碁勝負の準備が整っており、直ぐにでも始められる状態だった。
は囲碁盤を挟むように信長と向かい合い腰を下ろす。
「久しぶりの勝負ですね」
信長「そうだな。貴様、鍛練はしていたのか?」
「もちろんです!時々ですが、三成くんに教えてもらってました」
信長「そうか。では始めるぞ」
信長は久々のとの囲碁勝負を愉しむように黒い碁石をシャラっと擦り合わせると、碁石を置いていく。
ーーーパチンッ、パチンッ
心地よい静寂と碁石を置く音が暫く天主の中を包み込む。
「うーーーーん……」
首を傾げながら碁石の置く位置を難しい顔で見つめるに信長は思わず笑みを溢す。
信長「貴様は鋭いところを攻めるようになったな。この勝負なかなか面白い」
「本当ですか?!嬉しいです…あ、信長様。もし、この勝負に勝ったら一つだけ願いを聞いてもらえますか?」
信長「………良いだろう。その代わり俺が勝ったら夜伽を命じても構わんならな」
ニヤリと意地悪な笑みを浮かべながら深紅の瞳を細める。
「夜伽は…駄目です」
信長「ならば俺に勝て」
「うぅっ…やっぱり、さっきの話は無かったことにしてください。ただの囲碁勝負にしましょう!ねっ?」
慌てて賭けの取り消しを申し出るに信長は多少の苛つきさえ覚え、きゅっと眉間に皺を寄せる。
信長「貴様が言い出したことだ。約束は果たせ、」
瞳からの圧力におされ、半ば開き直ったように居住まいを正すと、持ち合わせの強情さが顔を出す。
「ーーーっ…わかりました。絶対に勝ちます!」
信長「それで良い。貴様の番だ。好きなだけ悩め」
は視線を信長から碁盤へと移すと、お互いの碁石はちょうど半々ほどに並べられていた。