第7章 時をかけあう恋~呼び名~家康side
俯けたまま、なかなか顔をあげない彼女。
その姿がなんだか落ち込んでる風にも見えなくない……
「…………まぁ、また寄ることがあるなら、今度からは声かけなよね。」
無意識に言った言葉に、俺自身が一番驚いた……
「…え?あっ……寄っても…いいんですか…?迷惑になるんじゃ……」
確かに普段なら、鍛練の最中に声なんてかけられたら気が散るから、急用でない限り家臣も近づかせないで、一人で集中して鍛練している。
実際、気配駄々漏れの彼女に、集中力が一瞬削がれたけど、だからといって彼女が来たことが、迷惑だとはなぜか思えない……
「………今日みたいな、声かけてこない方が、逆に集中削がれるから……。今度からは普通に声かければ。」
「は、はいっ!わかりました!家康さんや皆の邪魔にならないように、様子見て声をかけますね!」
「うん、そうして。」
「はいっ!!」
わからないけど、彼女がこれでもう来ないのかと思うと、それはなんだか残念な気がして……
次からも来ていいと告げると、彼女の声が嬉しそうに弾んでいて……
彼女の返事を聞いて、彼女のことだから近々また来るんだろうなと思うと、それがなぜか嬉しかった……
「ありがとうございます!家康さんのおかげで、早く終わりました!」
皿洗いも終わり、皿を棚に片付ける作業も手伝ったあと、笑顔でお礼を言った彼女に、心臓が少し跳ねた。
だけど同時に、少しモヤモヤもしている……。
「………別に…。俺こそ住まわせてもらってるし……それより前から思ってたんだけど……」
「??なんですか?」
その理由は、彼女が俺のことを『家康さん』と呼ぶこと。
最初はそう呼ばれるのに、何とも思わなかったけど、今は『さん付け』で呼ばれるのは、なぜだか嫌だと思う。
これも、なぜそう思うのかは、わからない………
何も言わない俺に、彼女が首を傾げたのが、目の端で見え……
「…………なんで、いつまで敬語と『さん付け』なわけ………?」
俺は、意を決して聞いてみた……