第7章 時をかけあう恋~呼び名~家康side
国を守るために、幼い頃から何年もの間、今川家での人質生活………
邪険にされ、見下されながらも、ひたすら屈辱に耐えていた幼少期だった……
この家にお世話になると決まったときも、また耐え忍ぶ生活かと思った。
だけど…………違った……
『家康さんの好きなものとかを知ったりして、家康さんと打ち解けたいんです。三ヶ月の間、同じ家で過ごすんです。家康さんは急にこっちの世界に来たから、戸惑うことばかりだとは思うけど、せめて家に居てる間は、少しでも不自由を減らして、居心地良いところになってもらおうと思って……』
『本当に気を遣わないでくださいね!家康さんが居心地良くできるように頑張りますから!』
あのとき、必死になって伝えてきたこの娘の言葉に、何を言ってるんだと呆れたけど、本音では、なんだか救われた気がした……
だから俺も、この娘の言葉を受け入れたし、俺なりに歩みよろうとも思った。
「確かに、言いましたけど………」
「でしょ。はい。じゃあ、言って。」
「えっ!?今ですかっ!?」
「……言ってるそばから敬語だし…。ほら、『家康』」
「えぇっ!?そ、そそそそっ!そんな急にはっ!!」
そう言って、口を開いては閉じを繰り返したり、あたふたしたり、指をモジモジしたりして、なかなか呼び捨てで呼ばない。
いつまでたっても呼ばない彼女に、俺もだんだんムッとしてきて……
「はぁー…、あんた、なかなか往生際悪いね……。なら……」
そう言いながら、両腕を彼女の方に伸ばし、彼女の真後ろにある食器棚に手をつき……
「言うまで、この腕退かさないから。」
両腕の中に、彼女を閉じこめた。