第5章 新たな日常
「滝井、こっちの書類の確認も頼むわ」
書類を片付けていると、目の前に書類を置かれた。書類から顔を上げ、無表情でその人を見上げる。
『分かりました。こちらに置いといてください』
「ちっ、あぁ」
その人は書類を置くと、どこかに行った。
なんで舌打ちされなきゃいけないわけ?
ため息をつく。
「大変ですね、〝滝井十二席〟?」
声のした方を向くと、書類を手にした璃久がニヤニヤしながら壁に寄り掛かってこっちを見ていた。
『あなたほどではありませんよ?〝真咲六席〟』
そんな璃久に対してにっこり微笑む。
『それで、今日はどうなさったのですか?』
「その前に〝それ〟止めろ」
そう怖い顔でせまってくる。
『なんのことでしょうか?』
笑顔を崩さずにとぼけると、嫌そうな顔をされるので、思わず笑いそうになる。
「いいからやめろ。誰もいねぇよ」
『......はぁ、しょうがないなぁ』
我が兄ながらなんと横暴なんだろう。そう呆れながらも、〝土御門 璃咲〟に戻る。
まぁ、さすがに毎日こんなにことをして疲れちゃったし。璃久の言う通り、周りには誰もいないみたいだからいっか。
そう思い、メガネを外す。璃久もそれに目元を少し緩ませた。
「にしても、素を出さないって疲れるなー」
璃久は疲れた様子でそばにあるソファーに座った。
『...ごめんね。私のために』
そんな様子を見て、申し訳なくなった。璃久はそんな私を見て「気にすんなよ」も笑った。
「元々俺が言い出したことなんだから、お前が気にすることはねぇよ」
『でも...』
「いいから。気にすんな」
『......私だけならともかく。璃久まで姿を変えなくても』
そう。護廷十三隊に入ると決まった時、私には大きな問題があった。その問題を解決するために姿形も名前も変える必要があったのだ。
「あの人は俺を知っているからな。それに〝死んでいる〟と聞かされても、本心じゃ納得していないはずだ」
〝あの人〟に気づかれるわけにはいかない。少なくとも、今はまだ。そのために璃久も姿形と名前を変える必要があった。
私は〝滝井 千紗〟、璃久は〝真咲 俊〟として。
それぞれ別の人として護廷十三隊に入隊することにしたのだ。