第11章 てあて
「...アンタの傷、あの子がやったんですか?」
「...何故そう思う」
雪月の部屋を後にした家康が次に向かったのは光秀の部屋。
部屋の主は左肩を中心に包帯でぐるぐる巻きにされ、布団に横になっている。
「アンタの傷はどう見たって刀傷じゃない。獣に噛まれた傷と同じだし、傷口付近が凍りついていた。獣にそんな芸当出来るとは思えないし、仮に前佐助が言ってたことが本当なら、それが出来るのはあの子しか居ない」
翡翠色の瞳に鋭い光を宿し、光秀を問いただす家康。
「......だったらどうする?俺を傷付けたのは雪月だと御館様に報告するか?」
部屋の天井を見つめたまま、家康の言及をのらりくらりとかわす光秀。
「...いえ、信長様には、只の刀傷だと伝えますよ」
「ほぅ...?」
意外な答えに光秀は目をみはった。
「あの子の身体、ここへ来たときと同じぐらい傷だらけだった...昔受けた暴力との記憶がこんがらがって暴走したと俺は考えてるんですけど」
「......」
「だんまりは肯定と見なしますよ」
「...俺が捕らえた奴に聞けばいいだろう」
「アレなら、今秀吉さんが殺す位の勢いで拷問してるんで無理です」
「...」
あの秀吉が...と思いながら、光秀は渋々口を開いた。
自分が現場に到着したときのこと、雪月が暴れていたことを。
只、雪月によって氷像にされてしまった人間を蹴り砕いたということだけは話さなかった。
光秀の話を、家康は静かに聞いていた。
...勿論、部屋の外で同じく話を聞いていた人物も。
その人物は、そっとその場を後にした。
その紅い瞳に、憎悪の炎を宿して。