第11章 てあて
「...ぁ、の」
目が覚めたばかりで掠れた声の雪月。
「......何?」
思わず素っ気なくなってしまう。
一体彼女は何を伝えようとしているのか。
脳裏に浮かぶのは、錯乱していた雪月の姿。
しかし、雪月の口から発せられた言葉は、予想の斜め上を行くものだった。
「......ぁい、がと」
「......え?」
思わず家康は変な声をあげながら雪月の方へ身体ごと向いた。
雪月は布団に寝っころがったまま、家康をじっと見つめている。
「...ひでしゃ、ぃってた、の...やしゅ、しゃ、ゆづきのけが、なおしてくれた、って」
(...秀吉さん、余計なことを)
思わず苦い表情をする家康。
「...怪我人を手当てするのも仕事だし、何より、信長様の命令でやってるんだからお礼を言われる筋合いなんてない」
...あぁ、何故自分はこんなことしか言えないのだろうか。
もっと他に言うことがあるだろうに。
家康はどうしようもない自身の性格を呪った。
「...まだ寝てなよ......ここに居るから」
精一杯考えて言えた事がこれか。
自己嫌悪に陥りながら雪月の枕元に座る家康。
しかし、雪月にとっては予想外だったらしい。とろーんとした目が若干見開かれた。そして、
「あぃ、がと...」
ふにゃりと笑った。
そして、やっぱり寝ぼけていたのだろう、又すぐに眠ってしまった。
「......」
眠る雪月をじっと見つめる家康。何を思ったか、そっと雪月の頭に手を伸ばした。
(...ふわふわ)
自身の癖っ毛よりもふわふわな雪月の髪。家康の手が心地好いのか、雪月は眠ったまま又ふにゃりと笑った。
「...はぁ」
初めて見た雪月の笑顔に骨抜きにされた気分だと思いながら、家康は雪月の部屋を後にした。
(さて、あの人に問いたださないと)
次の目的地へと向かいながら、家康は『彼』について考えていた。