第11章 てあて
光秀が雪月を連れて帰ってきてからの安土城はそれはもう上へ下への大騒ぎだった。
光秀は止血したものの肩からは血が滲み出しており、その腕に抱かれている雪月はぐったりしていて、しかもぼろぼろ。
これには流石の信長も顔が蒼白になった。
「ぶっ殺す」と物騒なことを呟いて光秀が捕らえた男を拷問しに行こうとする秀吉を必死に抑える政宗がいたり、手当てを手伝おうとして余計な仕事を増やす三成に呆れる家康がいたり居なかったり。
光秀は傷が思いの外深かったのと、出血がかなりの量だったこともあり絶対安静(布団から起き上がるのも難しい状態だから仕方ない)を言い渡された。
一方の雪月は...?
「......」
家康は雪月の部屋で黙々と雪月の手当てをしていた。布団に横たわる雪月の身体には包帯が所々巻かれている。
(...折角、治ったって言うのに、この子も運が無いね)
家康の脳裏に浮かぶのは、安土に来たばかりの頃の雪月。
痩せ細って、ぼろぼろで、小さ過ぎる身体。
(...この子は弱いんだから......)
「......ぅ」
ふいに、小さな呻き声が聞こえた。
どうやら、雪月が目を覚ましたらしい。
「...」
喜ばしいことだが、家康は素直に喜べない。
それは、彼が天邪鬼だからではない。
(...早く部屋から出ないと)
秀吉と政宗に連れられた雪月の薬品に対する異常なまでの拒否反応。
雪月が嫌がるその匂いは、家康自身にも染み付いている。
(...別に俺じゃ無くても、信長様とか秀吉さんとかがあの子の側にいたほうがいいに決まってる)
そう思い、部屋から出ようとした瞬間だった。
「...ぁ、って」
小さく、声をかけられた。
聞こえていないふりだって出来た筈なのに、何故か出来ず、家康はゆっくりと振り返った。
「...っ、」
布団で横たわったままの雪月。寝ぼけているのか、目がとろーんとしているし、焦点があってない。
「...まだ寝てないと駄目じゃん」
雪月の顔を直視することが出来ず、目線を逸らしたままの家康。