第10章 ゆーかい
小屋の温度は次第に常温へと戻っていく。
そして小屋の床には、砕けた氷の破片が。やがてそれも、溶けて無くなった。
「なーんだ、失敗しちゃったのか~」
湖の見える丘で、一人の男が呟いた。男の手には双眼鏡が握られており、そのレンズは光秀と、彼に抱き抱えられた雪月の姿が。
「もうちょっと頭のいい奴を雇えば良かったな~...まぁいいか。他の方法を考えよ」
風に煽られ男の纏う白衣がはためき、口元には鋭い三日月のような狂気じみた笑みが浮かぶ。
「待っててね♪俺の......」
男の言葉は、風にかき消された。
小さな子狐を取り巻く狂気。
それは、少しずつ、少しずつこの戦国の世を包み始める。
それに気づく者は、まだ、誰も居ない。