第10章 ゆーかい
しかし、
『ぐるぁぁ!』
「くっ?!」
何も見えていないロコンは目の前の人間も敵と見なしているのだろう、光秀に飛びかかり、左肩に牙を突き立てた。牙が刺さった傷口がみるみるうちに凍っていき、光秀の白い着物を深紅に染め上げていく。
「(傷口が凍った?!)......雪月、此方を向け」
『ぐるるるるる...』
「俺を見ろ、雪月!」
『?!』
光秀は無理矢理肩からロコンを引き剥がし、目線を合わせた。
光秀の肩から血が噴き出す。
「お前は誰だ?化け物か?ぽけもんか?違うだろう?」
『ぐぅぅぅぅ...』
「...お前は雪月、織田雪月じゃないのか?」
『ぐぅ?!』
ロコンが一瞬たじろいだ。
その目には、少しだけ光が戻っている。
「帰ろう雪月、お前の兄様のところへ」
一瞬、ロコンが光ったと思うと、光秀の腕の中にはぼろぼろになった雪月が。
「帰るぞ」
「う...ぁぃ...」
そのまま雪月は気を失ってしまった。
数分後。
見張りの男はとりあえず殴って気絶させ、ぐるぐる巻きにすると光秀は雪月を抱っこしたまま小屋へと入った。
左肩には簡単な止血が施されてある。
(これは...全て雪月がやったのか?)
小屋の中は真冬の寒さと言っても過言ではない位寒く、吐く息は白い。しかも所々凍っている。
何より目を引くのは小屋の中央にある氷像。成人男性と同じぐらいの大きさだ。
(まさか...)
よく見ると、それは紛れもなく氷付けにされた人間だった。
(雪月、お前は一体何者なんだ?)
心の中で問いかけても、腕の中にいる存在は答えない。
その顔に、叩かれた跡があるのを見つけた光秀。
(先に手を出したのはこいつらということか...)
残念ながらこの物言わぬ像には何も聞き出せないが、もう一人の男は捕らえてある。なら...
「この娘に手を出したのが運の尽き、だったな」
バキン
光秀は足で氷像を蹴り壊し、そのまま小屋を後にした。