第10章 ゆーかい
一方その頃、
「...ここもハズレ、か」
光秀は単身、安土城付近の山の中にある小屋に来ていた。
人身売買は人気の無い場所、特にこのような山の中の小屋に商品(人間)を隠していることがある。
それを知っている光秀は、自分の知る限りの場所を探していたのだ。
(あと見ていないのは、彼処だけか)
最後に残るは湖の近くの小屋のみ。
光秀は馬を走らせた。
数分後。
(彼処か...)
小屋が目視出来るとこまで来た光秀。馬の手綱を手頃な木に結ぶと自らの火縄銃に火種がついていることを確認し、慎重な足取りで小屋へと近づいていった。
(見張りは一人、可能性は高いな...)
見張りにばれないよう、近くの茂みに身を隠す光秀。
さてここからどうするかと思案していたその瞬間だった。
「...?!」
突然辺りの気温が、小屋を中心に急激に下がったのだ。
「おい、どうした!?」
外にいた見張りの男が小屋の中に入る。が、
「ギャアァァァァ?!」
直ぐ様悲鳴をあげて飛び出してきた。
「ば、化け物だぁぁ?ヒィ?!」
逃げようとした男に、白い何かが飛びかかる。
「や、やめてくれぇ!ギャアァァァァ!」
その白い何かは男の腕に噛みつくと、男の腕はみるみるうちに凍っていく。
(あれは...雪月、なのか?)
光秀の目には何時か佐助が見せた雪月のもう一つの姿、アローラロコンの姿が映っていた。
「...雪月、」
茂みから飛び出すと、極力穏やかな声で光秀は声をかけた。
「あ、明智、光秀...?!」
ロコンに噛みつかれた男が情けない声をあげる。
『ぐるるるるるぅ...』
ロコンは男から口を離すと、光秀を睨み付けた。
その目には、何も映っていない。
「...雪月、信長様が、お前の兄様が心配しているぞ」
そっとロコンの視線に合わせるようにしゃがむ光秀。