第10章 ゆーかい
それは突然のことだった。
「雪月、朝だぞ~」
と、何時ものように声をかけてから、雪月の部屋の襖を開けた秀吉。
しかし普段なら、声をかければすぐ起きる筈の雪月が起きる様子が無い。
「雪月~?起きろ~?」
こんもりと盛り上がった布団の側に寄る秀吉。
しかし、ここで彼はある違和感に気付く。
(...寝息が聞こえないし、布団も動いていない?...まさか)
思わず布団を捲ると、そこには無造作に丸められた雪月の着物や帯があるだけだった。
(昨夜は信長様の所で寝たのか?だが、雪月は何故こんな事を?)
これまでも、秀吉が起こしに来ても雪月が部屋に居ないことは多々あったが、その時は大抵天主で信長と一緒に寝たときだけだ。それに、今まで雪月が着物をぐちゃぐちゃに丸めたままにしていたこともない。
疑問に思う秀吉だったが、とりあえず雪月の着物を畳むと天主に向かって歩きだした。
これが、安土城を揺るがす大事件に発展しようとはこの時の秀吉は微塵も思わずに。
「雪月?昨夜は来ておらんが」
早速天主を訪れた秀吉。しかし、信長の元に雪月は来てないという。
「厠ではないのか?」
「いえ、先程確認してみましたが居ませんでした。入れ違いかとも思ったのですが、女中達も誰も見てないそうです...それから」
「何だ?」
「雪月の布団の中に、雪月の着物と帯が丸めて置いてありました」
「何?」
「普段雪月は着物や帯はきっちり畳みますし、丸めたまま放置するとは考えられません」
「...秀吉、」
「はっ」
「皆を集めろ」
「御意」