第4章 きず
(この子、ホント何者なの...?)
小さな身体に無数に出来た傷に薬を塗りながら家康は考えた。
(狐の耳と尾が生えてるだけでも普通じゃないのに...ただの子狐って訳でも無さそうだし、傷を負わせてたのは親?それとも他の人間?)
包帯を巻きながら尚も考える。
(それに、何で俺の部屋であんなに取り乱した...?『いたいこと』をされた部屋と何が同じなんだ...?)
考えているうちに治療は終わった。小さな身体のほとんどが包帯で覆われた痛々しい姿だった。
(...何で、この子のこと考えてるの俺。こんな弱そうな子、ほっといたっていいじゃない...でも)
でもやっぱり考えずにはいられない家康でした。
――ふわふわしてて、ゆらゆらしてて、あったかい――
何処かで知った温もりを感じて雪月は瞼を開けた。
確か秀吉と政宗に何処かへ連れて行かれそうになって、それで...
「目が覚めたか、雪月」
顔をあげれば、そこには『兄』の顔が。
「に、しゃま...?」
声を出せば、優しく頭を撫でられた。どうやら信長に抱っこされているらしい。
「秀吉から話は聞いた...」
「?」
何の事だかいまいち良くわかってない雪月は首を傾げた。
「これからは何かあれば遠慮なく言え」
そこまで言うと信長は雪月を布団の上に降ろした。
「?!」
突然今まで触ったことの無いふわふわ感に雪月はびっくりしたようで、信長の袖をぎゅっと掴んだ。
「どうした?」
「こえ、な、に?」
「何って...布団だが」
「ふ、とん...?」
「まさか貴様、布団も知らんのか?」
「あい...」
「...今まで何処で寝ていたのだ?」
「...おりの、なか」
「?!」
これには流石の信長も驚きを隠せなかった。
――雪月の身体に、無数の傷や痣がありました――
――どうやら、まともな食事を与えられていなかったようで――
――でも...わたし、ばけ、もの...だから...――
耳の奥で、先程秀吉から受けた報告と雪月の言葉が蘇り、信長は奥歯をぎりと噛み締めた。